カツカツと板書ひびけり寒四郎 玉田春陽子
カツカツと板書ひびけり寒四郎 玉田春陽子
『この一句』
今年も私立中学を皮切りに高校、大学と入学試験のシーズンがやって来た。受験生はもとより教師、両親らも気の休まるいとまがない時期である。この大事なときに予備校倒産などとのニュースが流れ、他人ごとではないと心配するのも当然だろう。いま教室では直前の追い込み授業が静かに進んでいる。寒のさなか、室内には乾いた空気と生徒の集中心が漲っているに違いない。
黒板は昨今ホワイトボードと油性ペンに変わった。あるいはⅠT教育花盛りのいまではプロジェクターやパソコンを使って授業が行われているかとも思う。この句は「板書ひびけり」とあるから昔の黒板授業だろう。白墨(これも懐かしい言葉だ)が「カツカツ」と黒板に無機質な音を立てている。教師の熱意が読み取れる擬音の使い方である。白い粉が飛び散り、力余って白墨がよく折れた記憶を、筆者は作者と共有する。後期高齢者世代が顔をそろえる句会だから、この感覚はノスタルジーとともに容易に受験生のころに帰ることができる。寒の入りから四日目を詠む「寒四郎」に時期、場面がよく合った句だ。寒中の受験勉強の厳しさが、十七文字の隠約の間に滲み出ているとみた。
この句会では、出席者一人ひとりが六句選のなかで、特に推す句を選ぶ決まりがある。筆者は特選句に選んだ。
(葉 25.01.21.)