三日はや朝食パンにハムエッグ  須藤 光迷

三日はや朝食パンにハムエッグ  須藤 光迷 『季のことば』  正月は元日はもとより、三が日の二日、三日、さらに松の内の七日まで、どの日も季語となっている。歳時記を見るとそれぞれの日にもっともらしい解説が載っている。角川俳句大歳時記によれば三日は「正月三が日の最後の日ゆえ、元日の厳粛さや二日の楽しさとは異なり、外交的な気分の日である」という。例句にある「昼過ぎを立ち読みに出る三日かな 坂本宮尾」あたりはその気分を映している。  掲句の作者も三日にしてお節や餅を食べ飽き、気分を変えたくなって、いつものパンとハムエッグにしたのであろう。誰もが経験する〝正月あるある〟をさらりと詠んだ日常茶飯句と思えるが、昔の正月風景を重ねると、戦後80年の風習や食卓の移り変わりが透けて見えてくる。  お節とは、そもそも新年の神様へのお供え物で、それを食べることで一年の豊作や家内安全を祈る意味がある。食材には五穀豊穣や子孫繁栄を願うため、数の子、黒豆、昆布巻き、紅白なますなど縁起物が使われる。味付けが甘いのは日持ちを良くするためだが、三が日は女性が料理をしなくてもいいように配慮したという説もある。  食の多様化が進む現代は洋風、中華風のお節が売られ、本来使わない牛や豚の肉料理が盛られている。さらにスーパーやコンビニが年中営業してる状況もあり、お節を三が日食べる必要性は薄れ、他の食べ物に目が向きやすいのであろう。作者は愛妻家として知られる。お節に飽きたと言いつつ、奥様をわずらわすことなく自らパンを焼き、ハム…

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