片時もスマホ離さず去年今年   植村 方円

片時もスマホ離さず去年今年   植村 方円 『季のことば』  「去年今年(こぞことし)」は、俳句独自の言葉で新年の季語。「行く年来る年」という意味合いの古くからある季語だが、高浜虚子の「去年今年貫く棒の如きもの」の一句によって命が吹き込まれ、一躍脚光を浴びるようになった。昭和25年暮、新年のラジオ放送用に作ったこの句は、「人生の達人の一種の達観に裏打ちされた名句で、この句によってこの季題の価値が定まった」(山本健吉『基本季語500選』)という。当時、76歳。虚子の代表作のひとつだ。  その名句誕生から75年目の去年今年、見渡せば誰も彼もがスマホに夢中。電車でもレストランやカフェでも、歩きながらでも、老若男女ほとんどの人がスマートホンの画面に釘付けだ。メールやLINE、ゲームに動画にSNSと画面の内容はさまざまだが、端から見れば、スマホに夢中なのは皆同じ。掲句は、その今日的風景を去年今年の季語に取り合わせた。  平成のはじめのころ、郊外のベッドタウンから都心へ向かう通勤電車は、日経新聞を読むサラリーマンであふれていた。それはそれで異様な光景だったが、今や電車内で新聞を広げている人は希だ。時代はすっかり様変わり。作者はもう一句、「二人とも画面見たまま冬のカフェ」と同じ句会で詠んだ。「なんだかなあ」との作者の声が聞こえてきそうだ。 (双 25.01.02.)

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