羽子板や娘は栄転の支店長 今泉 而云
羽子板や娘は栄転の支店長 今泉 而云
『この一句』
昭和30年代ぐらいまでは、お正月の遊びと言えば男の子は凧揚げに独楽回し、女の子は羽根突きというのが定番だった。今は羽子板と言えば飾り羽子板ばかりだが、昔は羽根突き用の小ぶりなものが売られ、無患子(むくろじ)の付いた羽子を突き合って遊んだものだ。負けた方の顔に墨を塗るといったルールもあった。
掲句は成長した娘のことを詠んでいるので、恐らく飾り羽子板であろう。飾り羽子板は江戸時代に人気役者の似顔を押絵にしたものが持て囃されたのが始まりという。時代とともに羽根突き遊びは廃れたが、飾り羽子板は女の子の健やかな成長を願う縁起物として今も人気がある。
娘さんが春から支店長に昇進するという嬉しい知らせが届いた。家には箪笥の上かどこかに、小さい頃に買ってやった飾り羽子板が残されている。やや色あせた羽子板を見ながら、子供の成長を実感し、喜びをかみしめている、そんな場面が想像される。
羽子板の持つ新春らしい華やぎに、娘が女性には珍しい支店長に昇進するという晴れがましさが重なり、とても目出度い雰囲気の句である。ジェンダーレスとか男女共同参画が叫ばれているが、女性の管理職比率は厚労省の調査で12.7%にとどまっている。欧米主要国は4割を超えており、厚労省は女性管理職の登用を企業に義務付け、比率を公表するよう求めている。新しい年に、この支店長に続き女性管理職が増えるよう、羽子板に願をかけたい。
(迷 25.01.01.)