両の目のレンズ張替え春隣 杉山 三薬
両の目のレンズ張替え春隣 杉山 三薬
『この一句』
いきなり俳句仲間うちの話になってしまう。筆者はこの句の作者と入社同期で配属先も同じ。酔吟会でいまも顔を合わせる間柄だ。句会のあとは反省会と称する飲み会となるのだが、作者は紛れもない下戸、筆者もいま病気療養中とあってともに参加を控えている。酒の飲めない二人は仲良く語り合いながら帰途につく。途中の話題はさまざまだが、後期高齢者同士であるから健康状態がおもになる。
この句が高点を取った今月の日経俳句会。選句表を見たときには作者が誰と思い至らず、「選」から漏れた。作者名を知った途端、いつの日かの句会帰りを思い出した。そういえば、白内障の手術をして劇的に視力が戻ったと言っていた。白内障は老人大多数の悩みだ。そういう筆者も定期的に眼科医にかかっているが、手術が必要という段階ではない。だからこの句が我が身に迫るものと思わず採りそこねた。選句者の心情には、「共感」という要素が選句を左右するのだとあらためて思い知ったことである。
当今、白内障手術をしたという人が周りに多い。目の前が明るく開けたと効果を絶賛する。濁った水晶体をレーザーや超音波で砕いて取り出し、人工のレンズを眼に入れるという方式だそうだ。同時に老眼も改善できるとある。作者は自らの経験を引いて「春隣」の季語にふさわしい句を作った。「張替え」のぶっきら棒な表現も的確と思う。作者によれば、女医だったというからますます春めいてきただろう。
(葉 25.01.31.)