玉砂利の音の尖りや今朝の冬 廣上 正市
玉砂利の音の尖りや今朝の冬 廣上 正市
『季のことば』
「今朝の冬」。立冬の朝を表すことばで、趣があって筆者の好きな季語である。「今朝の春(新年)」「今朝の秋(立秋)」と季違いもそろっているようだが、「今朝の夏(立夏)」は採っていない歳時記がある。春でも秋でも猛暑日がある昨今、「今朝の夏」にピンとこないせいかとみるのは穿ちすぎで、今朝の夏は最近の季語のように思える。
今年のようにだらだらと夏の置き土産のような高温が続くと、四季の移り変わり、ことに秋の入りがはっきりしなくなった。いまに気象異常で日本に夏と冬しかなくなると心配される。俳句の世界において、従来の暦と季語はますます実状に合わなくなっている。そんななか、冬の季語のうちとりわけ「今朝の冬」は凛としている。ぴりっと肌に感じる寒気を感じさせ、心身に緊張をあたえるようだ。
上の句は11月日経俳句会で最高点を得た。まさに緊張感と冬に入った感覚を上手に表現したというのが高評価の要因だろう。この句の舞台を筆者は神社境内と取りたい。立冬の日、作者は玉砂利を踏んで拝殿に向かう。冬の始まりを感じる寒気だ。北海道に生まれ育った作者だから、過ぎし日の思い出の句と取るのが素直とも思う。もう霜も降りていて玉砂利の音が以前とは違うことに気づいた。その音を「尖る」と詠んで寒気の鋭さを的確に表現している。初冬の神社の物寂びた風景のなかに、拝殿前の玉砂利を踏み分ける音だけが聞える。立冬の風景を音に托し繊細に詠んだ句と思う。
(葉 24.12.08.…