詐欺かしら電話の鳴りてそぞろ寒 山口斗詩子

詐欺かしら電話の鳴りてそぞろ寒 山口斗詩子 『季のことば』  振り込め詐欺とかアポ電強盗とか、高齢者を狙った犯罪が相次ぐ世相を巧みに織り込んだ一句である。取り合わされた「そぞろ寒」の季語が効いている。水牛歳時記によれば、そぞろとは「何とはなしに」の意であり、中秋から晩秋にかけて、ふと、ぞくぞくっとした寒さを感じることをいう。  出歩くことの減った高齢者にとって、電話でのおしゃべりは情報収集に欠かせぬ手段であり、楽しみでもある。それが犯罪の横行で、電話が鳴っても、まず詐欺ではないかしらと疑わなければいけない。何とはなしに感じる不安や心細さが、そぞろ寒の季語によって身に迫って来る。  2000年頃から始まった電話詐欺は、当初は息子や孫を騙ったものが多く、オレオレ詐欺と呼ばれた。その後、手口の多様化に対応して、名称が振り込め詐欺に変わり、現在は特殊詐欺に統一されている。警察庁の資料では、オレオレのほか、預貯金詐欺、キャッシュカード詐欺、架空料金請求詐欺、還付金詐欺など10類型に分類される。留守電設定などの対策もあり、被害は一時減少したが、3年前から再び増加、2023年の被害額は452億円に上る。  家族からの連絡やヘルパーさんの安否確認、さらに買い物の注文など、一人暮らしの高齢者にとって電話は命綱である。すぐに出るなと言われても、電話が鳴ればつい取ってしまう。老人の不安心理に付け込む特殊詐欺は卑劣で許されない。そぞろ寒と同類の季語に「うそ寒」がある。季語の本意とは少しズレるが、詐欺の横…

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