はつ冬やほんに小さな秋でした  金田 青水

はつ冬やほんに小さな秋でした  金田 青水 『この一句』  江戸時代の謡「声はすれども姿は見えぬ 君は深山(みやま)のきりぎりす」をもじった「声はすれども姿は見えぬ、ほんにお前は…」という戯れ歌がある。「ほんに(本に)」は、誠に、本当に、実に、という意味の副詞。似た言葉に「ほんの(本の)」があるが、こちらは、「ほんの一つ」など、次にくる言葉が取るに足りないものであることを表す語だ。掲句は「ほんの小さな秋」ではなく、やはり「ほんに小さな秋」がピッタリ。  暦の上では冬を迎えたが、11月になっても各地で夏日を観測するなど、今年も実に暑かった。気温的には〝夏〟が長かったせいで、誰もが秋は極端に短く感じたはずだ。掲句は、その昨今の気象異変をさらりと句に収めた。選者が口を揃えて言っているように、「ほんに小さな秋でした」のフレーズが何とも軽妙で、口語表現がうまく嵌まっている。暑い暑いと言っている内に、とうとう季節は初冬になった。ふり返ってみると実に秋が短かったなあ、との詠嘆を、童謡の「ちいさい秋みつけた」を借りて、洒落た言い回しになっている。  「今年は長い夏が終わったと思うといきなり冬の寒さで、本当に秋が短かった印象です。それを『小さい秋』の歌をうまく使い、『ほんに』『でした』と柔らかい口調で描写しており、うまいなと思いました」との千虎評がすべてを言い表している。 (双 24.11.25.)

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