ビア祭り主役の新酒ノンアルコール 前島幻水

ビア祭り主役の新酒ノンアルコール 前島幻水 『この一句』  俳句の世界で新酒と言えば、その年にとれた新米で造った日本酒を意味する。昔は農家や村の造り酒屋が新米の収穫後すぐに醸造したので、新酒は秋の季語とされた。掲句は意外にもビールの新酒を取り上げ、昨今のノンアルブームを絡ませてユニークな味わいの句となっている。  ビールは暑い盛りによく飲まれ、歳時記でも夏の季語に分類されている。ところがその年に収穫された原料を使って醸造した新酒ビールが出回るのはやはり秋だという。主原料の大麦は初夏に熟し、ホップは8月~9月初旬に収穫される。どちらも乾燥保存できるので一年中ビール造りはできるが、採れたてのホップを使った新酒は9月下旬から10月上旬でなければ味わえないようだ。  ビールの本場ドイツミュンヘンで、毎年秋に「オクトーバーフェスト」と呼ぶ世界最大のビール祭りが開かれる。新酒の時期に合わせたのだろうが、各国から600万人が訪れるという。先日のテレビニュースでも取り上げられていて、各メーカーが競ってノンアルコールビールを売り出し、どんどん飲まれている映像に、びっくりした。  掲句は、まさにその光景を活写している。作者はドイツ留学の経験があり、奥様はドイツ人。聞けばオクトーバーフェストにも行ったことがあるという。ドイツ人1人当たりのビール消費量は日本人の約3倍。同じテレビニュースが句材かも知れないが、現地事情に詳しいだけに、「あのドイツでノンアルか」との感慨はひとしおだったに違いない。 (迷 …

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