母の裾ぎゅっとにぎりて秋日傘  山口斗詩子

母の裾ぎゅっとにぎりて秋日傘  山口斗詩子 『この一句』  一読、情景がありありと浮かんだ。日傘を差したお母さんの裾を、しっかり握っている幼い女の子、という図が。実はその光景にぴったりの絵画がある。小倉遊亀という日本画家の「径(こみち)」という作品だ。下手な説明をするより「小倉遊亀 径」で検索してもらった方が早いが、あえて言うと、日傘をさした白い服の母親の直ぐ後ろを、おかっぱ頭の女の子が、やはり日傘を差して歩いている。さらにその子の真後ろをやや首の長い柴犬のような毛並みの犬が付き従う、という母子と犬が横一列に並んだ構図の絵だ。一目、温かで気持が安らぐ愛に満ちた作品だ。明るく温かく楽しいもの。草にも木にも雲にも動物にも通じ合う愛の心、生きることの喜びを感じ合う健やかさ。そんな想いに満ちた世界を描きたかった、と小倉遊亀。実はこの絵、中国の龍門石窟の仏像を観た時の感懐を元に描かれたそうだ。  句会で迷哲さんが触れたように、モネの有名な絵画「散歩、日傘をさす女性」も脳裏によぎったが、モデルが日本人ということもあり「径」の方が親近感が湧く。西洋画と日本画の違いはあるが、いずれにしても、景が浮かぶというのは俳句表現における重要な要素の一つで、採る決め手でもあったりする。掲句は、選者それぞれが自分なりの映像を思い描いて、高く評価された。上記二つの絵画にはどちらも描かれてないが、「ぎゅっとにぎりて」がなんともリアルで愛らしい。 (双 24.09.18.)

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