残り物チャーハンにして厄日過ぐ 星川水兎
残り物チャーハンにして厄日過ぐ 星川水兎
『この一句』
厄日とは二百十日のことで、台風の襲来の多い9月1日ごろにあたる。今年は暦通りに台風10号が来て、一週間にわたって日本列島を迷走、各地に被害をもたらした。進路予報が気になって眠れぬ夜を過ごした人も多かったのではなかろうか。
大型台風はひとたび上陸すると、作物や家々をなぎ倒し、押し流す。その猛威の前に人間は無力であり、通り過ぎるのをじっと待つしかない。そんな台風の日、掲句の作者は何とチャーハンを作って軽やかにやり過ごしている。台風10号に振り回されただけに、掲句の明るさ、ユーモアに共感した人が多く、9月の番町喜楽会では二百十日の兼題句で最高点を得た。
台風で家に閉じ込められて買い物にも行けず、残り物で食事を作って過ごした経験は誰にでもある。それをチャーハンと具体的に詠んだところに、生活感と可笑しみがある。圧倒的な自然の力に、庶民の暮らしの象徴ともいえるチャーハンをぶつける。意表を突く取合せが軽妙さを生んでいる。
地球温暖化による海水温の上昇で、台風は年々巨大化している。最大風速67メートル以上のスーパー台風も、日本近海で発生している。気象庁の統計では日本列島に上陸した台風の数は8月と9月が最も多い。家の補強や非常食の用意も怠れないが、残り物のチャーハンで災厄をやり過ごす心の余裕を見習いたい。
(迷 24.09.16.)