孫と嫁残暑を置いて帰りけり 加藤 明生
孫と嫁残暑を置いて帰りけり 加藤 明生
『この一句』
同居もしくは隣近所に住んでいる場合を除き、久しぶりに遠方の孫に会えるのは、祖父母にとって至福の喜びである。孫は、血を分けた自分の分身でありながら我が子と違い、育児やしつけ、教育への配慮、責任はなく、ただ短い間だけ可愛がっていればいい存在だ。孫の方も我が儘を聞いてくれ、怒られることもないので甘えっぱなし。孫の句が敬遠されるのは、そんな個人的な「甘い関係」があくまでも個の域を出ないからだ。「ほら、可愛いでしょ」と、ひとの孫の写真を見せられても…、という訳だ。
さて掲句。夏休みとあって息子夫婦が孫を連れて作者の家へ来た。あちこち念入りに掃除して、寝具も整えた。牛肉やら刺身やらご馳走を準備し、孫が喜びそうな食べ物も加え、盛大におもてなし。急に増えた家族と賑やかな食事を楽しむ。翌日は、近くのショッピングセンターに孫と買物。言われるままにおもちゃを買ったり、お子様ランチに付き合ったり。そんなこんなの二泊三日が終わり、孫一家が帰って行った。濃密な時間が過ぎ、また元の老夫婦だけの生活に戻ったとたん、急に残暑を感じた。まるで孫一家の置き土産のように。
「孫は来てよし、帰ってよし」。掲句はその「帰ってよし」を詠んだことで、孫句の甘さから距離をおくことに成功した。「残暑を置いて」の措辞も斬新で、得票は二桁を超え、堂々の一席に輝いた。
(双 24.09.08.)