銀の匙磨くも母の盆支度 星川 水兎
銀の匙磨くも母の盆支度 星川 水兎
『合評会から』(日経俳句会)
てる夫 盆の支度で、なぜ銀の匙かという点がこの句のミソでしょう。すごく年季が入った古いスプーンセットがお婆ちゃんのお気に入り。
双歩 仏具を磨くでは当たり前なので、銀の匙を持ってきたところがポエムだと思いました。
光迷 銀製品は手入れが大変、それにしてもご自宅で銀の匙をお使いとは。
豆乳 母はお盆になると忙しなくなります。盆支度という言葉がいいですね。
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お盆を迎える支度はいろいろと忙しい。自宅回りの草刈りや清掃から始まって、仏間の掃除、仏具の手入れ、盆提灯を出して、霊棚を設え、茄子や胡瓜の馬を作って、盆花も生けて、苧殻を炊いて、などなど。さらに、子供や孫、親類などを迎える準備も大変だ。季語「盆用意・盆支度」にこれらの事柄、例えば「仏具磨いて」などと詠んでも佳句は生まれそうもない。それどころか、季語の説明になりかねない。
この作者の母堂は、お盆を迎えるにあたり来客用の銀の匙を磨くという。銀製品は、硫化や塩化によって黒ずんでしまう。専用の布やクリームで磨くと、銀の輝きが戻る。その作業も母にとっては重要な「盆支度」なのだと詠う。一見、銀の匙とお盆とはかけ離れているようだが、その乖離が詩を生み、印象鮮明な一句となった。
(双 24.09.01.)