ヴィトン下げあの娘降り立つ盆の駅 杉山三薬

ヴィトン下げあの娘降り立つ盆の駅 杉山三薬 『この一句』  盆と正月は日本人最大の年中行事だ。仏壇を前に先祖を敬い感謝するお盆に比べ、国中が清新の気につつまれる正月はうきうきする。盆はどうしても抹香くさく、墓参りの習慣も核家族化が行き着いた昨今、途絶えがちになっているようだ。「親戚もいまやちりぢり盂蘭盆会 大澤水牛」と嘆息するように、家族や親類が一堂に集う盆行事はほぼなくなった。伯父伯母、その子たちは今どうしているのだろうかと思うばかり。  そんななか、故郷の実家に帰って盆の行事に加わろうなどという、掲句の娘さんなどは立派な心掛けの持ち主である。ただし、勤め先が一斉盆休みでやることもなく仕方なく帰郷したのかもしれず、句の本意はどちらか分からないが。  とにかく若い女性あこがれのヴィトンのバッグを下げ、駅に降り立つ娘の姿がある。高校卒業後、故郷を離れ都会の学校を出てどこか会社に就職したのか。まずは娘の”現在地”が気になる。ヴィトンもボストンバッグほどの大きさになるとずいぶんと値が張る。それを持てるほどの収入があるのは間違いない。意気揚々と下車したのか、人目をしのぶように降り立ったのかも気になる。どこかに隠れたドラマがあるような句である。いささか古い話で恐縮だが、『カルメン故郷に帰る』という高峰秀子演じる、日本初の総天然色映画を思い出した。「妄想が過ぎるよ」と作者に怒られそうではあるが、「ヴィトン」と「あの娘(こ)」が妄想をかきたてる。 (葉 24.08.31.)

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