卒寿への最後の坂の残暑かな 田中 白山
卒寿への最後の坂の残暑かな 田中 白山
『この一句』
「俳句は自分史」と言う俳人がいる。自句を振り返ると、作った当時のことが甦るという人も多い。人生の節目節目の一コマを、短詩に託して書き記す行為は自らの生きた証でもある。節目でなくとも構わないが、作者にとって特別な出来事の方が説得力が増す。掲句は、晩年の自分史上大きな節目である卒寿を目前にした作者の一句。
「卒寿」は「卒」の俗字、「卆」に由来する90歳のお祝い。「還暦(60歳)」や「古希(70歳)」は、中国由来の節目だが、「喜寿(77歳)」「傘寿(80歳)」「米寿(88歳)」「白寿(99歳)」などの「寿」がついた長寿祝いは、日本独自の命名という。昭和9年生まれの作者は今年で満90歳。日本人男性の平均寿命(約81歳)を大きく超え、文字通り長寿のお祝いまであと少し。その登り坂の最後の数歩の所で、残暑が立ちはだかっている、という。立秋を過ぎてもなお連日の猛暑、作者の切実な思いが伝わる。
作者が誰か、ある程度想像できたとはいえ、句会では断トツの一番人気だった。「同年代として共感していただきました(幻水)」、「十年に一度の暑さだそうです。頑張って越えてください(愉里)」、「ご立派です、頑張って、まだまだ大丈夫!(満智)」、「卒寿までとは言わず、白寿まで(百子)」、などと多くの句友からエールを送られた。本当におめでとうございます。
(双 24.08.25.)