古のラガー揃ひて冷素麺 池村 実千代
古のラガー揃ひて冷素麺 池村 実千代
『この一句』
老年のラガーマンが打ち揃って冷素麺を食べているという、場面を想像するだけで愉快になる句である。句会では「昔のラガー仲間が素麵をまん中に出して、懐かしがって喋りながら食べている」、「古つわものどもが、どんぶり鉢で素麵を食べている」など、元気の良い老年ラガーを思い浮かべた人が多く、7月の日経俳句会の兼題句で二席となった。
老いたりとはいえラグビーで鍛えた大男たちが、細い素麺をつるつると啜る。その大小の対比が面白みを生んでいる。さらに、現役の頃は肉やご飯をがっつり食べていたラガーが、今は素麺で済ますという今昔の落差も、句に可笑しみをもたらしている。
作者は息子二人をラガーマンに育て上げた〝孟母〟である。夏は合宿所に、冬は競技場に足を運び、料理や弁当を作るなど息子たちを応援してきた。句会での作者の弁によれば、今でも菅平の合宿所に顔を出すことがあり、昔の学生ラガーが、今や監督や指導者になって十人ぐらい集まって来る。みんなでラーメンやカレーを食べて、試合に出て行く情景を詠んだとのこと。
「古のラガー」は大げさで、「往年の」ぐらいでどうかとの指摘があった。しかし数十年にわたってラグビーに関わってきた作者にとって、若き時代は「いにしえ」であるという。「古のラガー」という措辞には、作者自身の懐旧の念も込められているのである。
(迷 24.08.21.)