何しとる死ぬの待っとる夏の雲 金田 青水
何しとる死ぬの待っとる夏の雲 金田 青水
『この一句』
「何しとる」との問いかけに「死ぬの待っとる」ととぼけた答えを返し、夏の雲を取合せる。何とも人を食った内容だが、番町喜楽会の6月例会で最高点を得た。この句会は20年の歴史があるが、ここ数年は新規加入者がなく、高齢化が進んでいる。平均年齢は70歳を大きく超えており、老いの感慨や人生の終着を見つめたような句が割と出てくる。
掲句もそのひとつだが、独特の語り口と季語の取合せの妙で、どこか明るさの漂う句となっている。まず「しとる」、「待っとる」という民話風のリフレインが、深刻さを和らげている。季語に夏の雲を持ってきたのは、時空を超える狙いであろう。入道雲の下で水遊びに興じた幼い頃から数十年を経て、今や終末を意識する作者。「死ぬの待っとる」と言いながら、生命力あふれる夏雲を取合せたところに、「まだまだ」という開き直りも感じられる。
句会では「~しとる」という語調について「わざとらしい方言で嫌味だ」との厳しい指摘があった。調べてみると「しとる(している)」は、東日本ではあまり耳にしないが、糸魚川から西の中部地方、近畿、中国、四国にかけて割と広く使われる方言のようだ。作者はその糸魚川の出身。故郷の方言をあえて織り込んだのは、幼き頃に見た夏雲を主人公にして、年老いた自分に「何しとる」と呼びかける寓話の世界に遊びたかったのではなかろうか。
(迷 24.07.19.)