走るより速く耳かく梅雨の犬 星川 水兎
走るより速く耳かく梅雨の犬 星川 水兎
『合評会より』(日経俳句会)
双歩 確かに犬が耳をかく時、足をバタバタとやるので、よく観察している句だなと思って頂きました。ただ、耳をかく足のスピードが走るより速いというのは、比較対照の尺度が違うので、ちょっと無理があるなとは思いましたが……。
阿猿 雨の日に外に出られず、無聊をかこっているのは、犬より飼い主でしょう。
健史 場面のスピード感が伝わってきます。
静舟 犬は時々こんな動作をする。昔、犬小屋で鎖に繋がれていた土まみれの飼い犬を思い出した。
三薬 この句は、まさか犬が走るスピードと、足で耳をかくのとのスピード比較ではないよね。走らずに速く耳かく梅雨の犬でしょう。
* * *
「弾丸(たま)よりも速く、力は機関車よりも強く、高いビルディングもひとっ跳び」。これは、昭和のテレビドラマ「スーパーマン」の冒頭の決め台詞だ。スーパーヒーローの図抜けた能力がよく分かる。ところで、掲句は「走るより速く」何をするのかと思えば「後ろ足で耳をかく」というのだ。移動するスピードと動作のスピードを比較するのは、「弾丸より速く空を飛ぶスーパーマン」と違って、さすがに無理がある。
むしろこの句は、雨続きで散歩の機会が減った「梅雨の犬」が主役なので、「所在なく足で耳かく梅雨の犬」辺りが妥当だろう。しかし、それではあまりにも平凡だ。理屈はおかしくても、作者が詠みたい情景は掲句で充分伝わる。突っ込み所が妙…