黙祷の長き一分蝉時雨      嵐田 双歩

黙祷の長き一分蝉時雨      嵐田 双歩 『この一句』  一読して、沖縄・摩文仁の丘で開催される戦没者追悼式の場面が浮かんできた。沖縄県は日本軍の組織的戦闘が止んだ6月23日を「慰霊の日」と定め、毎年全戦没者追悼式を開いている。テレビでも中継されるが、参列者の多くは黒のかりゆしウエアに身を包んで黙祷し、犠牲者を悼むとともに、平和への誓いを新たにする。 沖縄はちょうど梅雨が明けた頃で、平和祈念公園の木々にはたくさんの蝉が湧き、喧しく鳴いている。8月の黙祷といえば、広島・長崎の原爆忌や終戦記念日もある。しかしいずれも立秋を過ぎており、秋の季語に含まれる。蝉時雨と重なるのは、やはり沖縄慰霊の日であろう。  沖縄戦の死者数は19万人といわれ、半数は民間人が占める。沖縄出身の軍人・軍属を含めた死者は12万人にのぼり、県民の4人に1人が犠牲となったという。公園の一角には、戦争で亡くなった人々の名を刻んだ平和の礎(いしじ)が幾重にも連なる。そこに佇むと、本土防衛のために捨て石にされた沖縄の苦難、悲哀が胸に迫り、頭を垂れざるを得ない。  最近は黙祷も短縮化の傾向にあり、30秒で済ます式典も多い。しかし沖縄戦の犠牲者の霊と語らい、冥福を祈る時間はおのずと長くなる。「黙祷の長き一分」の措辞に、鎮魂の思いの深さが感じられ、その静寂の場に響く蝉時雨が心を打つ。 (迷 24.07.11.)

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