万緑の更に奥なる光堂 溝口 戸無広
万緑の更に奥なる光堂 溝口 戸無広
『この一句』
光堂は中尊寺金色堂のことである。辞書をあらためて引くと、「金色に塗った堂」とあり、その後に「平泉中尊寺の金色堂の俗称」とある。調べてみると、紫式部ゆかりの石山寺にも光堂があったりするが、こちらは「ひかりどう」ではなく「こうどう」と読むらしい。俳句の世界では、松尾芭蕉の「五月雨の降のこしてや光堂」があまりにも有名で、中尊寺金色堂の他に光堂はない。
恥ずかしながら、筆者はどういうわけか中尊寺に行ったことがない。だから、実際の金色堂のロケーションとこの句のイメージがあっているのかどうかわからない。行ったことのある方の選評によれば、「中尊寺の広大な寺域に木立に囲まれた金色堂がある」(てる夫)、「光堂のところは結構開けていて、そんなに鬱蒼とした緑の中にあるわけではない」(双歩)、など印象は必ずしも一様ではないようだ。
この句は、なんといっても「更に奥なる」が効いている。それでなくても生命力の溢れる「万緑」の更に奥へ行くと、光あふれるお堂の光景が目に飛び込んで来るというのは、映画のワンシーンを見るようでとてもドラマチックである。「更に奥なる」より「奥の奥なる」の方が良かったのではないかという意見があったが、いずれにせよ簡潔でとても気持ちの良い句である。
(可 24.07.07.)