厚みます薬手帳や六月尽 和泉田 守
厚みます薬手帳や六月尽 和泉田 守
『季のことば』
病院で薬の処方箋を貰って薬局に行くと、処方薬の内容を印刷したシールを「お薬手帳」に貼り付けて返してくれる。シールは多少厚みがあり、薬局に通う回数が増えると、手帳がだんだん膨らんでくる。医者通い、薬局通いが日常となっている高齢者の感慨を、手帳の厚みで上手く表現している。下五の「六月尽」によって、「まだ半年なのに、こんなに厚くなって」という作者の嘆きも伝わってくる。日経俳句会6月例会でかなりの点を集めた句である。
ところが句会で長老の水牛氏から「みなづき(水無月)尽はあるが、六月尽という季語はない」との指摘があった。手元にある角川俳句大歳時記を見ると、確かに「みなづき尽」と「六月の限り」は載っているが、「六月尽」はない。意味も旧暦六月の尽きること、すなわち暦の上で夏が終わることを表す季語である。昔はこの日に「夏越の祓(なつごしのはらえ)」を行う習慣があったという。作者は単に新暦の六月が終わる意味で使ったと推察されるが、季節感のずれに水牛氏が違和感を覚えたようだ。
片山由美子の「伝えたい季語、変化する季語」によれば、そもそも「尽」は季節が終わることを意味するので、三月、六月、九月、十二月になるが、去りゆく季節を惜しむ心がこめられ、ゆく春、ゆく秋に近い言葉である。したがって夏、冬にはいわないという。三月(弥生)尽と九月尽に、夏越の祓と結びついた六月尽が季語として定着したということであろうか。
ネッでト検索すると、二月尽や…