万緑を笠に照り映え斎王代 岡松 卓也
万緑を笠に照り映え斎王代 岡松 卓也
『おかめはちもく』
斎王代とは初夏の京都を彩る葵祭のヒロインのこと。平安の昔には内親王が「斎王」として加茂神社に奉仕したが、葵祭が戦後に復興された時に、京都に縁のある未婚女性が代理として選ばれるようになったという。葵祭ではその斎王代が京都御所から下鴨神社を経由して上加茂神社まで行列する。きらびやかな衣装を着けた女官や公家に先導され、輿に乗った斎王代が進む光景は、まさに平安絵巻である。
掲句は兼題の万緑を取合せ、斎王代を描く。京都の歴史と風情を詠み込んだところが気に入って点を入れたが、他に採った人はいなかった。点が伸びなかったのは、細かい点で句にあいまいさが残ったからではなかろうか。
「照り映える」は光を受けて美しく輝くという意味の自動詞である。笠に照り映えているのは、神社の緑であろうから、助詞は主格を表す「万緑の」でなければ意味が通らない。さらに「笠」も分かりにくい。葵祭の女官や斎王代は笠を被っていない。斎王代のすぐ前を行く花が飾られた「浮流傘」か、斎王代の金属製の髪飾りを指しているとも考えられるが、はっきりしない。
わずか17音の短詩である俳句では、助詞ひとつで意味が違ってくることがある。例えば「万緑の映える花傘斎王代」とか「唐衣に万緑映える斎王代」など、葵祭の景をより分かりやすく伝える言葉を選んだほうが良かったのではないか。
(迷 24.06.26.)