老木も若木もすべて柿若葉    中村 迷哲

老木も若木もすべて柿若葉    中村 迷哲 『季のことば』  「柿若葉」も“得する季語“のひとつではなかろうか。初夏の瑞々しさがこの一語にこもっていて、多くを語る必要がないように思える。色自体が明るい薄緑で椿の葉にも似た艶があるが、椿とは逆に柔らか味がある。柿の名産地ではこの時季、家ごとの庭が柿若葉におおわれ匂うような景色であろう。むかし乗った第三セクター線の両側は柿の木を持つ家が延々と続き、若葉のいまを想像するさえ気分が晴れる。  柿の葉といえば柿の葉鮨を連想する。もとは奈良、和歌山、加賀地方などの郷土料理だが、いまや全国区並みの知名度がある。鯖、鮭、小海老やさまざまな具材と酢飯を柿の葉で包んでおり一口で頬張れる。柿の葉には殺菌作用があるうえ、香りも手伝って弁当に良し、酒のつまみに良し。柿の木は果実のみならず葉も利用できる。中国、韓国、日本特産の果樹だったのだが、現在では生産量は中国に次いでスペインが2位と聞いて驚いた。欧州では「kaki」と日本語がそのままなのも面白い。  柿若葉の気持ち良さを詠む掲句は、表面的な意味以上のものが隠されているように思うのだが……。青年が元気溌剌なのは当然のこととして、老いたる柿の木も同じように瑞々しい若葉を付けているという。人生には老いも若きもないとの寓意があると言えば穿ちすぎだろうか。 (葉 24.06.22.)

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