十薬や漬物石の捨て置かれ 星川 水兎
十薬や漬物石の捨て置かれ 星川 水兎
『季のことば』
十薬がドクダミの事だとは知識としては知っていたが、俳句を始める前はあくまでも「毒だみ」というおどろおどろしい名前で認識していた。毒があるわけではなく、干して乾燥し煎じたものは、食あたりや胃腸病に効き利尿作用もあるという。また、外用薬として腫物など皮膚病にも有用とされる。日当たりの悪いジメジメした場所を好み、繁殖力が強く、地表部を摘んでも地下茎が残っていればどんどん増える。匂いが独特で嫌われる要因となっているが、葉を潰したり引き抜いたりしない限り、生えているだけでは鼻を近づけてもさして異臭はしない。6月のこの時期は、白い十文字の愛らしい花(正確には苞という葉の一種)をつける。
その日の句会で、兼題の十薬に29の出句があった。そのほとんどが「十薬の日陰ひそかに独り占め(迷哲)」や「十薬の慎ましやかに庭の隅(幻水)」などの一物仕立ての句が多かった。
掲句はその中で数少ない取り合わせの句で、十薬と漬物石(それも「捨て置かれた」)が、付かず離れず微妙に響き合っている。「捨てられた」であれば主がいない廃屋も考えられるが、「捨て置かれた」の措辞からは、単に出番がないので置きっぱなしになっている程度だと覗える。その石の周りには十薬が結構生えているのだろう。とはいえ、住人が庭の手入れをサボっているのではない。私もそうだが、花が咲いてる間は妙に抜くのを躊躇らわれるのだ。
(双 24.06.18.)