葛餅の武骨な色も味も江戸 水口 弥生
葛餅の武骨な色も味も江戸 水口 弥生
『合評会から』(日経俳句会)
三薬 西は吉野、東は亀戸天神が代表か。東の葛餅は本物の葛じゃあないのをくず餅と言い放っている。関東の武骨な色味、良いんじゃないでしょうか。
浩志 あまり葛餅のことは知らないんで。だから逆に惹かれたというのが正直なところです。
操 葛餅が醸し出す様子が的確に表現されている。
青水 ボクは皆さんとは少し違う解釈をしました。作者は上方の人で、吉野葛を誇る上方目線で、東国・江戸の小麦粉葛餅を見ている。その辛辣な視線がピリリと利いていて、そこが気に入って頂きました。
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江戸の葛餅は、亀戸天神、川崎大師、池上本門寺、目黒不動など寺社の精進料理の主役である麩を作る際に大量に出る小麦澱粉(正麩=しょうふ)で作った餅。正麩は糊の原料にしかならなかったのを、煮詰めているうちに水分が蒸発して固まってしまったのを食べたら食べられるということで、門前茶屋で黄粉と蜜をまぶして出したら人気を呼んで名物になった。葛粉とは全く関係ないのだが、関西の上品な葛餅にあやかって〝 僭称〟した。色は黒ずみ、饐えた匂いと酸味がする、本元の葛餅とは似ても似つかぬ食物だが、気取らない素朴な味になんとも言えない良さがある。この句はそういう江戸葛餅を「武骨な色も味も江戸」と「これこそ江戸なのよ」と開き直ったように言ったところがとても面白い。
(水 24.05.30.)