幕あいに扇子波立つ演舞場 中村 迷哲
幕あいに扇子波立つ演舞場 中村 迷哲
『合評会から』(番町喜楽会)
春陽子 最近は冷暖房がしっかりしていて、こういう風景が少ないかもしれません。「演舞場」という言葉がぴったりはまっています。
白山 どこの劇場でも見られた懐かしい光景ですね。今は冷房が効いていて少し違うかもしれません。
愉里 幕間の瞬間を捉えていて、他の扇子の句にはない、斬新さを感じました。
満智 客席も華やかな演舞場の雰囲気が伝わります。
二堂 幕あいのざわめきをうまく表現しています。
* * *
たしかに、冷暖房の効いたいまの劇場では見られない光景かも知れない。しかし、前半の舞台のクライマックスを息を詰めて見ていた観客が、幕が降りたことでホッとして思わず扇子を取り出した光景は、いまでもありそうに思える。冷房の効果とは別の、芝居の熱気を冷ます効果が扇子にはあるように思う。
演舞場とは、新橋演舞場のことだろう。いまは松竹の劇場であるが、元は京都祇園の歌舞練場などに倣って建てられた花柳界の劇場らしい。「演舞場」という言葉が最後に置かれたことで、とても引き締まった雰囲気のある句になっている。
(可 24.05.27.)