母の日や母でも子でもあり多忙 向井 愉里
母の日や母でも子でもあり多忙 向井 愉里
『季のことば』
5月第2日曜日(今年は12日)は「母の日」。創設者は米国の社会活動家アンナ・ジャービスという女性だ。彼女は、Britannicaによると、同じく社会活動家の母、アン・ジャービスが日曜学校で「いつか誰かが母の日を制定してくれることを祈っていた」のを聞いていて、母の死後、命日に当たる5月第2日曜日を母親を讃える祝日にするための運動を始めた。この運動はやがて全州に広がり、2014年に時の大統領ウッドロー・ウィルソンが母の日を国民の祝日にしたという。
アンナ・ジャービスは13人兄弟の10番目だが、成人まで生き残った兄弟は4人だけだったとか。また、後年になって母の日が商業主義に流されてゆくことへの懸念から、祝日の法制中止を求めるようになったりと、波瀾万丈の人生だったようだ。実録や伝記が好きなハリウッドが南北戦争を背景に、いずれ映画化しそうなキャラクターだ。
話を掲句に戻そう。作者は二児の母。実家では米寿を迎える母が健在だ。句意は明瞭で、母に感謝の意を表し、子供からは祝福されるという二通りの役割に「あたふた」といったところか。下五の「あり多忙」の収束が、ぶっきらぼうでいて、自らをおどけて見せている。類想はありそうだが、詠み方が心地よく、句会では断トツの一番人気だった。
(双 24.05.15.)