小座敷に残り香ゆかし桜餅 中沢 豆乳
小座敷に残り香ゆかし桜餅 中沢 豆乳
『合評会から』(日経俳句会)
二堂 桜餅を食べるというようなことは言わないで、残り香が漂っているということで句を作った。上手いなと思いました。
枕流 前にいた人が食べた桜餅の残り香で春を感じる、風流を覚えました。
静舟 女子会でもあったのか? 桜の葉で包んだ桜餅を食べた余韻が残って、もう春も終わりね、という感じである。
健史 奥ゆかしい言葉の連鎖が絶妙です。
迷哲 ゆかしではなく、ほのかとか、価値観が入らない言葉の方が良かった。
双歩 残り香だけで十分にゆかしいので、ゆかしとしない方が確かにいいと思います。
* * *
桜餅の香りはとても強くて、あたりに漂う。それがちっとも嫌ではなくて、甘党でなくとも食べてみたくなる、何ともそそられる香りである。そもそも桜餅なるもの、大した餅菓子ではない。小麦粉に桜色の染粉を入れて溶いて焼いた薄焼きで餡子を巻き、塩漬けの桜葉でくるんだだけのもので、もともと隅田川土手の花見客相手の安直な葦簀張の餡餅だった。しかし、甘い餡を塩漬けの桜葉で包むというアイデアが抜群で「銘菓」となった。くるむ葉は香りの良い大島桜の葉で、じっくり一年かけて塩漬け熟成したものを用いたのも成功の基だった。
この句について、「ゆかし」とまで言わない方が良かったという句評が多かった。同感だが、作者の思わずそう言いたくなる心情も可としたい気分になる。
(水 24.05.07.)