ベース弾かば蝶迷ひ出る山躑躅  岡松 卓也

ベース弾かば蝶迷ひ出る山躑躅  岡松 卓也 『この一句』  ツツジは日本全国至る所の山々に自生し、都会では車歩道の境界や公園に植えられ、晩春から初夏、人々の目を楽しませてくれる。中でももっとも見慣れたツツジが「大紫」ときには「大盃」とも呼ばれる大輪の紅紫の花を咲かせるものだ。これは排気ガスにも強いから交通量の多い国道県道など大きな道の端に植えられている。丈夫で、少々踏まれても、犬に小便をかけられても耐える健気な花木である。あまりにもありふれているからか、さほど有難がられないが、外国人観光客は「日本では車道の脇にも美しい花が咲いているのだ」と感激する。  もう一つの役者がヤマツツジ(山躑躅)。これは日本の野生ツツジの代表で、朱色がかった赤色の花をたくさんつけるので、園芸品種にも改良され全国各地の有名庭園を彩っている。小山のように盛り上がって咲き誇る姿は圧巻である。  この句はそんな山躑躅のこんもり茂った芝生の庭園で繰り広げられているジャムセッションの一場面を詠んだものではなかろうか。ベースのズンズンという響きに、背後の山躑躅から蝶々がふわふわ浮かんできたというのである。  そういえば、ツツジの漢字は今時十人中九人は書けないだろう「躑躅」。この「躑(てき)」も「躅(ちょく)」も「つまづく」とか「立ち止まる」という意味。植え込みいっぱいに咲いたツツジはそれこそ楊貴妃をも引き止める力がある。これにベースの音が加われば蝶々も蜜を吸うのを忘れてしまうだろう。 (水 24.04.22.)

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