春闘のたたかひの文字軽くなり 中嶋 阿猿
春闘のたたかひの文字軽くなり 中嶋 阿猿
『この一句』
バブル崩壊後「失われた歳月」と言われ30年余り。日本経済についに転換点が来たようだ。春闘の先陣を切って今年の大手企業は、昨年を上回る高額回答ラッシュだ。集計ボードに並ぶ「満額」「満額」の文字に、年金生活者である当方も好感を禁じ得ない。大手平均5.28%アップということだが、これが中小企業の賃上げを後押しするのなら言うことはない。実質賃金の右肩下がりが続いているなか、デフレ経済の安売りに慣れ切った我々に意識変換を迫る画期でもある。また金融政策も異常なゼロ金利を17年ぶりに打ち止め、金融正常化に向け踏み切った。この先日本経済がどのような軌跡を描くのだろうか。ここまで、いささか句評を離れて経済に深入りした感じである。
掲句は一見時事川柳にも見えるが、なかなか奥の深いところを突いていると思う。デフレ時代を通し労使は眦を決した賃金闘争を展開してきたこととは思う。しかし物価安が緩衝材となって、スト突入などの派手な闘争はまれだった。昨年今年とかなりの賃上げ水準で、春闘の「たたかひ(闘)」の字はいっそう軽くなったと作者は詠う。とげとげしい労使紛争を続けても課題の生産性向上にはつながらない。何気なく「たたかひの文字軽くなり」と言ってのけるこの句は、低迷経済の脱出を詠んだと言えそうだ。年金暮らしにとって物価上昇を伴う「困る画期」ではあるが……。
(葉 24.04.06.)