身を焦がし潮の香放つ目刺かな 中村 迷哲
身を焦がし潮の香放つ目刺かな 中村 迷哲
『合評会から』(日経俳句会)
百子 あんな小さな魚なのに、焼くと存在感が際立ちますね。
ヲブラダ 高度な技法で作られつつあるフレンチの魚料理みたいに思えます。
卓也 生活臭に傾きがちな煙を言葉で浄化して鮮やか。
豆乳 焼いた目刺を口に入れると腸の苦みとともに潮の香りが広がるのを、この句で思い出しました。
阿猿 イワシ一尾に歴史あり、ドラマあり。
弥生 焼いた身に漂う潮の匂い、これもまた目刺を味わう楽しさです。
三薬 身を焦がしというのがちょっとね、もっと素直に簡単な表現でいいのでは。人なら恋に身を焦がすとかいうけど……。確かに目刺も焦げるけどね。
双歩 でも綺麗な句ですね。
* * *
擬人法で、「身を焦しつつ潮の香りを放つ」とは少しやり過ぎという感じがして句会では難癖をつけた。「焦げながら潮の香放つ」とでもすれば、もう少し自然な感じになっていいんじゃないかと思ったのである。
しかし作者はそんなことは十分承知の上で、「ちょっと気取ってみた」とにこにこしている。なるほど、こうして遊ぶのも俳句の楽しみの一つだ。句会に集まった多くの人がこの句を可としているのも、そうした楽しさを喜んだからなのだろう。
(水 24.03.08.)