春めいてやりたい事が三つ増え 池村実千代
春めいてやりたい事が三つ増え 池村実千代
『季のことば』
「春めく」は山本健吉の『基本季語500選』によると、「二、三月のまだ寒い中にも、万象春めいてくる気配が感じられるのである。『めく』とは、そのきざしが見えてくる意の接尾語で、四季それぞれに使えるが、ことに『春めく』が情感もっとも豊かである。春めくことがそれほど人々に待たれているからであろう」という。筆者が思うに「春を待つ」に呼応する季語のような気がする。寒の最中に、「早く春が来ないかな」と待ち焦がれる期待感が、いざ立春を迎え、どことなく春らしさを覚えた時に、心の底から感じる気持ちではないだろうか。
春めいてきて、作者はテンションが上がり、あれもこれもとやりたい事が増えたという。しかも三つも。「やりたい事が二つ三つでもいいね」との而云さんに対し、「三つ四つでもいいね」と水牛さん。言い切るよりも曖昧な方が味があるということか。
ともあれ、読者としては何と何だろうと気にかかるのが人情だ。掲句を選んだ人も口々に「何だろうと聞きたくなる」という。しかし、具体的に答えを聞くのは野暮というもの。読者それぞれが勝手に想像してる方が楽しいに違いない。俳句は種明かしをすると興を削がれることがある。今度、作者に会っても、あえて聞かないでおこう。
(双 24.03.01.)