春めくや軽トラで来る野菜売り 植村 方円
春めくや軽トラで来る野菜売り 植村 方円
『合評会から』(日経俳句会)
朗 軽トラが非常にいい。軽快で、いかにも春野菜を積んできたという感じが出ています。
迷哲 軽トラの軽やかな感じが、春が来たっていう雰囲気と合っている。
健史 軽トラが爽やかな春のイメージにピッタリ。
明生 運転手も野菜売りを待つ住民も、春めいてきてウキウキしている感じが伝わってきます。
三代 春の野菜を一杯積んでやってきたのでしょう。
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野菜売りの軽トラックがやって来た場面に「春めく」の季語を取合せ、あたかも春を運んできたかのような読後感を生んでいる。春めくの兼題句で最高点を得たのもうなずける。選句者が揃って指摘するように、「軽トラ」の4字略語が効いており、小回りをきかせて走り回るイメージが軽やかさを生み、荷台に満載されている春野菜の瑞々しさまで連想させる。
軽トラの似合いそうな下町を想像したが、作者の弁によれば自宅のある古い住宅地で見かける光景という。高齢化が進み、スーパーに買い物に行っても重いものを待ち帰れないため「九割が宅配利用」らしい。それでも野菜や果物など生鮮品は見てから買いたい気持ちが強く、野菜売りの軽トラに高齢者が集まってくるという図式のようだ。春を迎えた喜びを軽トラに託して詠んだ分かりやすい句と思ったら、背後には意外に深刻な現実が潜んでいた。
(迷 24.03.04.)