丸い背を北風のせいと言ひ歩く  山口斗詩子

丸い背を北風のせいと言ひ歩く  山口斗詩子 『この一句』  誰にだって見栄がある。ことに歳を取って身体のあちこちが傷んできたり、白髪がめっきり増えたり、シワやたるみが出たり、ハゲて来たりすると、それを少しでも目立たないようにと苦心する。そうした老化現象はいくら苦心しようが隠しおおせるものでは無いのだが、何とかしたいのが人情だ。  そこにつけ込んだ健康食品が嫌というほど売り出されている。製薬会社や食品メーカーがあれこれ薬効を並べ立て、医薬品のように装って宣伝販売にこれ努める。「健康で長生き」は人間誰しもの願いだから、こういう“まゆつばモノ”が無くなることはない。当然のことながらそうしたものが効き目を顕すことはまず無い。しかし、それを飲むとなんとなく効いてきた気分になってくるから厄介だ。「一ヶ月分6千円を初回特典3千円」といったところが、こうしたものの相場のようだが、こういうものにハマると一種類で止まることはなく、どうしても二種類、三種類となる。かなりの出費となるが、これも年寄りの見栄のしからしむるところである。  だが、「見栄」こそ老化防止の特効薬という説もある。白髪もシワも、背中が曲がっても何も気にしないというのは、「もうどうでもいいや」ということで、老化は一気に進んでしまう。見栄あればこそ生きる力が生まれるというのだ。  この句の作者のように「背中が丸くなってるのはね、北風を少しでも避けるためなのよ」と、人にも、そして自分自身にも言い聞かせながら歩く。この見栄というか気概こそ、…

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