全集に朱文字の値札空つ風 玉田 春陽子
全集に朱文字の値札空つ風 玉田 春陽子
『合評会から』(日経俳句会)
迷哲 青空市で古本を並べて売っている情景でしょう。昔は高かっただろう全集が紐で縛って置いてあり、赤の安い値札がついている。本の置かれた今の状況と空っ風の雰囲気が合っていると思いました。
可升 朱文字の値札を貼った全集はあまり見たことがないですね。古本屋は赤字で書いたりはしないのでは……。
雀九 全集に朱文字の値札までは良いのですが、なぜ空っ風なのか。俳句のためにくっつけた感じがして採りませんでした。
明生 朱色の値札がついているので、なかなか売れない全集でしょう。しかし書店主にすれば、ぜひ読んで欲しいと思っている自慢の本ではないでしょうか。そんな感じが季語の空っ風に表れています。
百子 古本屋の値札俳句は、よくありますが……。同じ作者かな? 空っ風が吹きさらしの平台に乗っている全集に当たっているのですね。
定利 神保町の古本屋のガラス越しに良く見ました。寒さに震えながら。
弥生 季語が誘う古書街の空気感が漂っています。
戸無広 古本と空っ風との取り合わせがマッチしています。
健史 書籍に対する愛情表現の変化球でしょうか。
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類句がありそうな気もするが、立派な装丁の全集が無造作に縄でからげられ空っ風に吹き曝されているとは、“活字離れ”の世相をよく表している。
(水 24.01.12.)