冬すみれ城の名残の野面積 星川 水兎
冬すみれ城の名残の野面積 星川 水兎
『この一句』
暮に行われた日経俳句会合同句会で高点を得て一席に輝いた句。この句、人気を博する要素は多いが、なんといっても季語「冬すみれ」の働きが大きい。春の季語「菫」は、可憐で慎ましやかな花。冬に咲く菫は、さらに清楚ではかなげ。万物枯れてしまった冬ざれの景色の中にあって、一際愛らしい存在だ。掲句一読、読者はその可愛らしい「冬すみれ」の魅力にたちまち虜になる。しかも、咲いている場所は城跡の石垣、それも野面積の石垣の間に咲いているというのだ。舞台装置としてこれほど似つかわしいロケーションはないだろう。
野面積とは自然石を加工せずに組む石垣のこと。石の組み方としてはもっとも原始的で歴史も古い。出っ張りや隙間が多く、よじ登りやすいという築城上の欠点はあるが、水はけが良く大雨に強いなどの利点があるという。城とは限らず地方の傾斜地などでは、素人でも組める野面積の石垣はよく見かける。野面積は好きな句材だという俳人の黛執は句集『野面積』に「石一つ脱て遅日の野面積」、「竹馬の凭れてをりし野面積」という句を納めている。
可憐な冬すみれと、素朴な野面積との取り合わせがなんとも絶妙で、魅力的な一句となった。
(双 24.01.10.)