観戦の合間につくる雑煮かな   中嶋 阿猿

観戦の合間につくる雑煮かな   中嶋 阿猿 『この一句』  正月ことに三が日の朝は真に忙しい。まずお節料理を机の上に並べ、お屠蘇の用意をし、お雑煮の準備にかかる。そのころには既に駅伝のテレビ中継が始まっている。元日には上州路で実業団の、二日と三日には箱根路で大学生の駅伝が繰り広げられる。そこで、餅の焼け具合や雑煮の煮え具合を気に懸けつつ目や耳はテレビに、ということになる。  この句に描かれたそわそわした気持ち、駅伝好きの夫婦としては実によく分かる。「観戦の合間につくる」という表現は実に適切だ。もとより正月のスポーツは駅伝だけではない。アメリカンフットボールもあれば、ラグビーやサッカーもある。だがしかし、襷渡しの合間、走っている間に台所へ立ってという姿を想像してしまう。  ところで、作者の雑煮はどのようなものなのだろうか。餅は丸いのか四角いのか、また焼くのか焼かずに煮るのか、醤油味か味噌味か……。さらに汁に入れる野菜には人参に大根、牛蒡、小松菜などなどあるがさて、とも。駅伝は日本発祥の競技で、箱根駅伝は令和6年の今回が第100回。優勝の行方とともに雑煮の出来具合が気に懸かる。 (光 24.01.03.)

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日は既に青空にあり雑煮膳    大澤 水牛

日は既に青空にあり雑煮膳    大澤 水牛 『この一句』  昨令和五年の元旦は、全国的にはどうだったかと思うが、関東地方は青空に恵まれたと覚えている。昨年を振り返ればいい年ではなかったと断言できる。ウクライナ戦争は終局がみえるどころか、ますますエスカレート。そうこうしている間に、秋口からはイスラエルとパレスチナ・ハマスのおぞましい復讐合戦が始まった。二つの凶事は新年を迎えても打ち止めの気配が感じられない。国内を検証すれば、物みな値上げの物価高。所得格差が高進し食事を満足に摂れない子どもまで続出する始末。ここまで書いてくると、なんだか「二条河原の落書」めいて、気が滅入ってくるようだ。  さて令和六年、はたして国内外の暗雲をはらうべく曙光が差すだろうか。  なんだかんだ愚痴を言っても、正月である。芝居の幕が切り替わるように晴れがましい気分に一変する。酒量いまだ衰えぬ作者ゆえ、大晦日を夜っぴて飲み明かしたのかもしれない。元旦を起きてみれば、日ははや高々と中天にある。しかも見事に晴れ渡った青空だ。「日は既に青空」は新年早々から寝過ごしたか、という作者のかすかな後悔の念を表す。それでも新年のスタートを祝う気持ちが十分に伝わる。洗面をすませ祝いの席に座れば、長年慣れ親しんできた家流の雑煮椀である。上天気に祝い膳、こんな目出たい景色は元旦だからこそ。ちょっぴり二日酔い気味でもお屠蘇が進んだに違いない。 (葉 24.01.02.)

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初みくじ裏を返せば英字版    徳永 木葉

初みくじ裏を返せば英字版    徳永 木葉 『この一句』  この年末年始に外国からの訪日観光客がどっと増えたと、ニュースが伝えている。コロナの入国制限緩和に加えて円安もあり、コロナ前の水準を回復する勢いという。ただ旅行の内容は、化粧品爆買いに代表される買い物ツアーや名所巡りから様変わりしているようだ。日本の伝統文化や庶民の暮らしに接する体験型ツアーが人気だという。禅寺で坐禅を組んだり、信州で凍み豆腐づくりを体験したりといったコースが紹介されていた。  各地の神社・お寺の年始参りでも外国人の参拝客が目につく。作法を習ってお参りし、破魔矢やおみくじを買う。掲句はそうした動向を軽妙に詠みとめたもの。「裏を返せば」の中七が巧みで、おみくじという極めて日本的なものが、ひっくり返せば国際理解の小道具に転じるところが面白い。  調べてみると神社・お寺の国際化は意外に進んでおり、成田山新勝寺、浅草寺、明治神宮、鶴岡八幡宮など、英文みくじを取り入れている所は多い。日本文の内容を英訳して裏に記載するスタイルが大半だ。ちなみに大吉はGreat LuckもしくはExcellent Luck、中吉はMiddle Luck、小吉Small Luck、凶はBad Luckと訳すようだ。小さな英文みくじが国際化の懸け橋となっていると考えると楽しくなる。  この欄の読者の皆様にGreat Luckがもたらされる一年であるよう祈念して、今年もご愛読をお願いしたい。 (迷 24.01.01.)

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