一年の禍福煮こごる年の暮    中沢 豆乳

一年の禍福煮こごる年の暮    中沢 豆乳 『この一句』  新聞社では年末になると、その年の十大ニュースを紙面で発表する。国内外で起きた数多のニュースから選ぶので、さまざまな分野の出来事が並ぶ。掲句を読んだ時に、その十大ニュースを思い起こした。  今年であれば、終息の見えぬウクライナ戦争、ガザでの軍事衝突、自民党の政治資金問題など深刻なニュースが思い浮かぶ。その一方で、大谷選手の超高額移籍や将棋の藤井八段の八冠制覇など明るい話題もあった。国民にとって禍福が交錯した1年だったように思える。  この句を採った人は「禍福煮こごるに共感した」など、中七の表現に面白みを感じている。禍福糾えるという表現はあるが、禍福煮こごるは作者の造語であろう。凝る(こごる)とは、液体状のものが冷えて凝固することを意味する動詞。魚の煮汁が冷えて固まったものを煮凝(にこごり)といい、冬の季語となっている。掲句の季語は「年の暮」とはっきりしており、煮こごるは、禍福がごっちゃになって固まっている状態を表しているのだと思う。  世界と日本の十大ニュースを考えると、沸騰化する地球、米中ロの対立、枯渇する資源、借金まみれの財政など、悲観的な材料が多く、未来への展望が開けてこない。内外ともに手詰まりの状況を「禍福煮こごる」と詠んだ、スケールの大きな時事句に思えてきた。 (迷 23.12.29.)

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