菜食の妻には告げぬ薬喰 前島 幻水
菜食の妻には告げぬ薬喰 前島 幻水
『合評会から』(番町喜楽会)
青水 小市民的な心情と季語の持つ暴力的な力が合わさって、緊張感あふれる作品になっています。
百子 菜食の奥さんなら、ご亭主が外で何を食べようと「勝手にして」ということじゃないかと思うのですが、それでもあえて奥さんに申し訳なく思う作者の気持ちに一票投じます。
迷哲 この人は恐らく恐妻家ではないでしょうか。似たような境遇の者としての同情と、句のおかしみへの共感から採りました。
水馬 あまりシリアスなことを考えて詠んだのではなく、いたずらっぽく詠んでみた句ではないでしょうか。
木葉 ベジタリアンの奥さんに獣肉を食べに行くなどとは言えません。遠慮と気遣いが見られ、これも夫婦愛でしょう。
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作者の奥さんは、かつては肉食をされた方だが、体調を崩され手術をされてから菜食になったとのこと。それ以来、作者は、外で美味いものを食って来たよなどと、家に帰って来て話さないようになったとのこと。
それを話したからといって、そんなに大ごとになるわけではないだろう。だが、恐妻のゆえではなく、あえてそれを口にしない事は、木葉さんご指摘のとおり、夫婦愛のひとつの形に違いない。ごちそうさまです、幻水さん!
(可 23.12.17.)