神の旅成層圏はいつも晴 玉田 春陽子
神の旅成層圏はいつも晴 玉田 春陽子
『この一句』
季語は「神の旅」。陰暦十月には、日本全国の八百万の神がすべて出雲大社へ参集する。そのために、出雲以外の土地は「神無月」となり、出雲は逆に「神在月(神有月)」となる。この神々の移動が「神の旅」である。由来のよくわからない俗説という見方が多いが、こんな面白い話を手ばなすことはない。
それにしても、なぜ神々は出雲に集まるのか?日本を統合したのが大和政権であるとすれば、権力を笠にきて大和や伊勢に集めるのが筋じゃないかと思わないでもない。もしかすると、キリスト教の「皇帝(カエサル)のものは皇帝に、神のものは神に」と同じように、地上の権威と天上の権威を、大和と出雲で分けたのだろうか、などと妄想が働く。
「成層圏」は、地上を取り巻く対流圏の上、10キロから50キロくらいの上空で、雲がないためにいつも晴れの状態である、と国交省のサイトにある。航空機が飛ぶのは、この対流圏と成層圏の境界あたりで、気球はまさしく成層圏を飛ぶらしい。
この句は、なによりも「成層圏はいつも晴」ときっぱり読み切った清々しさが持ち味である。ベテランの詠み手である作者は、もちろん「晴れ」などと送り仮名はつけない。「晴」の一文字が潔くていい。うがって読めば、いつも晴れの成層圏を旅する神々が、下界の争いを見て、「相変わらず阿呆やなあ、人間は」と言っているのかも知れない。
(可 23.12.06.)