加湿器と痒み軟膏冬来る     工藤 静舟

加湿器と痒み軟膏冬来る     工藤 静舟 『合評会から』(日経俳句会) 青水 ボクの発想には全くない接近の仕方です。そのまま歳時記に乗せても、とまで思いました。 而云 う─ん!そうかなあ。加湿器も痒み軟膏もそのまま冬なんだよ。 双歩 乾燥肌で痒くなるのはよく分かる。 実千代 実は選句のやり方について、いま反省しています。よく分からなくなっています。自分がどう感じるか直感で選んでいるので、俳句の良し悪しを言葉では上手く言えないんです。  水牛 悩むことはありません。自分が感じたように選んでいいんです。それが選句の大前提です。その上で、表現方法、言葉遣いなどを検討する。 三代 すっかり忘れていましたが、冬の必需品ですね。身につまされます。 水馬 加湿器は湯気立つという季語がありますが、季重なりは気になりませんでした。 定利 立冬をこの二つで詠むとは。面白いですね。           *       *       *  「立冬」という兼題で詠まれた句。こう詠まれてみればなるほどと思い、実千代さんの言うように「いい」としか言いようがない。実はそういう句が本当に良い句なのだと言えるのではないか。「冬来たる」の季語に加湿器と痒み止めとを取り合わせて、直ちに立冬を感じさせる。子どもが作ったような句ではあるが、句作の骨法をすらりと明らかにしている。 (水 23.12.04.)

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冬来たる古傷疼くバイクのり   久保 道子

冬来たる古傷疼くバイクのり   久保 道子 『この一句』  今年の立冬は11月8日だった。水牛歳時記によると『「いよいよ冬だ」という緊張感が、立冬という言葉にはあるようだ』という。確かに、これから厳しい冬を迎えるという気構えを抱かせる。  掲句の作者は、オートバイに乗っているようだ。バイクは自動車と違って、日差や風(時には雨も)、気温など自然に直に触れながら移動するので、運転するのはとても爽快だそうだ。しかし、車と違って生身の身体を晒しているので、ちょっとした運転ミスや事故に遭うと、怪我をしたり、場合によっては生命の危機にも繋がりかねない。作者も大事故には到らなかったものの、過去には怪我をした経験があるのだろう。立冬を迎え、古傷(精神的なものもあるのかもしれない)が疼くのも理解できるというものだ。  この句、共感する人が多く高点を得たが、下五「バイクのり」に疑義を挟む意見が出た。「この句は作者自身を詠んだのか、第三者の立場で他人を詠んだのか分かりにくい。俳句では『自他場(じたば)』と言って、自分・他人・場所が明確になるように詠まなければなりません」と、水牛さん。「バイクのり」が自分の事か他人の事か判然としない、という。  ネットで調べてみたら、バイクに乗る人は「ライダー」「バイカー」「バイク乗り」などと呼ぶらしい。「バイク乗り」には趣味で乗っている人のニュアンスがあり、自分の事を「バイク乗り」と称する人が多いという。作者もそう自称していると思われる。つまり、「バイク乗り」は「自」…

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モニターに映る頸椎そぞろ寒    廣田 可升

モニターに映る頸椎そぞろ寒    廣田 可升 『この一句』  番町喜楽会11月例会の兼題「そぞろ寒」に、病院内の様子を詠んだものが3句並んだ。掲句はそのひとつで、診察室のモニターに、MRIで撮ったであろう頸椎の画像が映し出されている。医師が画像を指しながら痛みの原因を説明している光景が想像される。自分の体内、それも病巣がくっきりと示され、何やら隠し事を暴かれたような気分になっているかもしれない。 添えられた季語の「そぞろ寒」は仲秋から晩秋にかけて「何とはなしに感じる寒さ」(水牛歳時記)をいう。秋の終わり頃にふと感じる寒さは、冬の到来を予感させ、ちょっと心淋しい気分をもたらす。不安を抱えながら診断を聞く患者の心理に絶妙にマッチしている。  同じような場面を詠んだ句に「見せられし肺の画像やそぞろ寒」(玉田春陽子)があり、こちらを選んだ人もいた。どちらの句を採るかそれぞれ迷ったようだ。モニター派の意見は「措辞が客観的ですっきりしている」、「肺より骨がそぞろ寒に合う気がする」というもの。これに対し肺の画像派は「見せられしという措辞によって、医師が病状を説明している景がすぐ浮かぶ」と、臨場感に着目している。  作者によれば、長年の仕事の影響で第七頸椎が圧迫され、腕や肩に痛みが出ているとの診断だったという。団塊の世代が後期高齢者となり、医療費は膨張の一途である。選句表には「そぞろ寒診察待ちの顔と顔」(大澤水牛)の句もあった。急速な高齢化の進展で、医療も介護も年金も崩壊寸前のこの国の未来に、そ…

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