この年の傷を浸して柚子湯かな 徳永 木葉
この年の傷を浸して柚子湯かな 徳永 木葉
『この一句』
作者は今年初め、突然難病に襲われた。外出(特に夜間の)が難儀になり、句会や吟行に参加しにくくなった。それでも先日行われた納めの句会には元気な姿を見せ、みんなを安堵させた。
掲句は、その席上で高点を得た一句。「傷」とは作者の気持ち、心の傷だ。この一年、何とか病と折り合いをつけ、共存する日々を過ごした。冬至の日に柚子を浮かべた風呂に浸かると、無病息災でいられるという。「冬至」と「湯治」、「柚子」には「融通がきく」という語呂合わせもあるそうだ。大晦日に柚子湯を習慣としている家もある。「ナイフ傷や打身もあれば、心の傷もあるでしょう。今年負った傷を思いながら、ゆったり風呂に浸かるのはいいものだと思いました」という雀九さんの句評が的を射ていた。この冬、作者は殊の外感慨深く柚子湯に浸かったことだろう。
作者は他にも「ゆすらうめ幸運なんていつも小粒」や「難病の癒ゆる日ありや薄暑光」という病に因んだ句をものしていて、「ゆすらうめ」の句は令和5年度の日経俳句会賞英尾賞に輝いた。「ゆすらうめ」の語感も好きだという作者。「ゆすらうめ」に「ゆず」の二文字が透けているのも偶然ではないような気がする。病にめげず、新しい年を迎えようとする明るさもいくらか垣間見える。
(双 23.12.31.)