どんぐりの転がる帰路のリアシート 廣田 可升
どんぐりの転がる帰路のリアシート 廣田 可升
『合評会から』(番町喜楽会)
水牛 子供とは言ってないのに、行楽ではしゃいで疲れ、後部座席に眠る子供の姿が思い浮かびます。うまい詠み方の句ですね。
青水 非常に丁寧に描写していて、鑑賞する者を気持ちよくさせてくれる詠み方の句です。
迷哲 帰路のリアシートに転がるどんぐりで、行楽帰りの子供の情景がよく見えて来ます。
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水牛氏の評の通り、子供の文字は無いのに子供の姿がありありと浮かんでくる。言葉の選択と配置が十二分に工夫されており、表現の巧みさに舌を巻いた句である。句は「どんぐりの転がる」と軽快に詠み出し、「帰路の」と続けて疑問を抱かせ、最後のリアシートで一気に場面を明らかする。
車のリアシートに座っているのは子供だろう、行楽先でどんぐりを拾った帰路なんだ、疲れて眠ってしまい、どんぐりが手から転がったのだろう――連想が次々に湧いてくる。読者の視線は一度どんぐりの転がるリアシートに絞られ、反転してシートから車内全体に拡がり、眠る子供を見つけて驚くことになる。最後の五文字のもたらす映像効果の鮮やかさに、唸るしかない。
作者は句会で「ラ行の音が多くなり、しつこい感じがするのでは」と語っていたが、むしろコロコロと転がるどんぐりにラ行のリズムが合う。映像のみならず音感も刺激する句である。
(迷 23.11.13.)