名月の町を眼下に最終便 須藤 光迷
名月の町を眼下に最終便 須藤 光迷
『合評会から』(番町喜楽会)
青水 月光をバックに深夜の町を眺め下ろしている光景。久々の帰国でしょうか、それとも、毎週末の最終便でしょうか。詩を感じさせる句です。
水兎 飛行機から見る町の灯りは、なにやら切ないものを感じさせます。ましてや、最終便ですから。
幻水 中秋の名月に照らされた町を、最終便の飛行機から見下ろす。情景がよく伝わってくる句です。
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この句を採らなかった人の、「ジェットストリームを思い出した」という評を聞いて、思わず笑ってしまった。評者自身も、「ミスター・ロンリー」のメロディと城達也のナレーションが聞こえて来そうな句だと思ったからである。また、この句を読んで、蕪村の名句「月天心貧しき町を通りけり」と、視線の方向は正反対だが、同趣の句ではないかという感想も持った。
作者によれば、中秋の名月の翌朝、月の中に機影が見事に収まった報道写真を見て、かつて仕事をしていた頃の、出張帰りの経験を思い出して詠んだとのことである。「最終便」はありきたりじゃないかとの評もあったが、「最終便」のもたらす疲労・解放・脱力・安堵などのないまぜになったイメージが、蕪村の「貧しき町」に通底するのではないかと思うのは、うがち過ぎだろうか。「最終便」の情緒に素直に浸りたい句である。
(可 23.10.23.)