十八年ぶりの号外星月夜 廣田 可升
十八年ぶりの号外星月夜 廣田 可升
『この一句』
生粋の大阪人の作者、とうぜん熱烈な阪神タイガースファンである。十八年ぶりに待ちに待った歓喜が訪れた。球界一、二を争う人気球団ながらリーグ優勝にも、ましてや日本一にも縁遠い。「ダメ虎の応援」と自嘲しながら、決してファンを止めない関西人気質は立派といえば立派である。東京を代表する読売ジャイアンツというライバルの存在が、東京には負けたくない関西人の感情をかきたてる。豊臣vs徳川の歴史を引きずっているかのようだ。東京のカラオケではまず歌われない「道頓堀人情」という歌まであり、その歌詞のサビは「負けたらあかん、負けたらあかんで東京に」である。
今年の関西スポーツ紙の見出しは「アレ」に始まり「アレ」で終止した。再登場岡田監督が選手に優勝の二文字を意識させない軍略がみごとにはまった結果である。タイガースの〝機関紙〟デイリースポーツをはじめ、関西スポーツ各紙はおろか一般紙まで「優勝」号外を発行した。各紙をセットにしメルカリに、あるいはコンビニでのプリント販売やPDF号外まで百花繚乱。作者もいくつかの号外を手に入れたのだろう。大事故や大事件時には号外が出て、大方はその場限りで捨てられてしまうが、阪神優勝号外はファンの永久保存となるに違いない。
「星月夜」の下、作者が十八年ぶりの感慨に耽ったこの句は、虎ファンの筆者が絶対採らなければならない一句であった。惜しむらくは、時事句の宿命、この句の命もタイガースの栄華のように儚い。
(葉 23.1…