ぶだう狩つま従へるつまのこゑ 金田 青水
ぶだう狩つま従へるつまのこゑ 金田 青水
『この一句』
詩歌や古典文学に馴染みの薄い人にとって、この句は奇異に感じられるかもしれない。原因はふたつの「つま」にある。俳句では、妻はもとより夫もつまと読む。そこで作者は「前と後ろのどっちが男でどっちが女?」と謎々遊びを仕掛けたのだ。昨今のジェンダー論議などを背景に。そこが理解されないと、この句の面白さは失せてしまう。
そういう、相聞の時代からの語源、万葉の和歌でも江戸の俳諧でもという経緯はさておき、「つま」の句には心に沁みるものや諧謔に富むものが色々ある。例えば「夫恋へば吾に死ねよと青葉木菟」(橋本多佳子)であり、「定位置に夫と茶筒と守宮かな」(池田澄子)である。「除夜の妻白鳥のごと湯浴みをり」(森澄雄)も印象深い。
俳句は花鳥諷詠、なかんずく写生、といわれることが多い。それも確かなのだが、そればかりではない。人間模様を描き出した句も多い。銭を数える先生の姿を描いたり、子供に歯が生え始めた喜びを詠ったり、実に豊かなのである。恋や病気の俳句もその仲間に入るだろう。秋の夜、それらを探訪してみては如何だろうか。
(光 23.10.09.)