露しとど重たきラフの二打三打 堤 てる夫
露しとど重たきラフの二打三打 堤 てる夫
『この一句』
ゴルフほど、やる人とやらない人の〝距離〟の大きなスポーツはないと思う。野球やサッカー、バレーボールなど大概のスポーツは学校の授業や部活で体験する。ゴルフはコースに出る前に、高価な道具を買って練習を重ねる必要があるためハードルが高く、未経験のままの人が多い。このためゴルフを詠んだ俳句は経験者の理解を得やすい反面、やったことのない人には分かりにくく、万人に共感される好句は稀である。
掲句は露に濡れたラフに苦しむゴルファーを描く。専門用語はなく、経験のない人にも場面が容易に想像され、その困惑ぶりが伝わってくる。数少ないゴルフ俳句の秀作の一つと思う。
上五に据えた「露しとど」が上手い。それだけで露に濡れそぼつ草のイメージが湧く。「重たきラフ」と続けることで、ゴルフ場の伸びた芝が露をたっぷり含み、ボールの脱出を妨げていることが分かる。秀逸なのは下五の「二打三打」である。濡れたラフがクラブに絡みつき、思うように出ない。ラフからラフへと渡り歩いたりして、二打三打と費やしてしまう。ゴルファーなら誰もが経験していることを、平易な言葉でユーモラスに詠んでいる。
句会では「まったく身につまされる」と経験者からの点が多く入ったが、ゴルフをやらないとおぼしき女性も選んでいた。作者は膝を痛める前は、ゴルフの名手として知られていた。濡れたラフからすんなり一打で出せる腕前だったと思うが、二打三打と苦労した場面を詠んだことで、共感を呼ぶ諧謔味の効い…