捨案山子薬散布のドローン飛ぶ 堤 てる夫
捨案山子薬散布のドローン飛ぶ 堤 てる夫
『この一句』
ドローンとは無線操縦あるいは自動制御の無人航空機をさす。もともとは軍事用に開発され、ウクライナ戦争では双方が攻撃兵器としてドローンを飛ばし合っている。民生用には、2010年ごろカメラを搭載した小型ドローンがホビー用に売り出され、世界的に普及した。日本でも2015年に航空法に定義され、空撮や構造物検査、物流などに用途を広げながら、急速に台数を増やしている。
農業分野もそのひとつである。種まきをはじめ、肥料・農薬の散布、生育状況の調査、出荷作業などに活躍している。ヘリコプターに比べ操縦が容易で小回りが利き、コストが安い。人手不足に悩む農家にとって強力な助っ人となりつつある。
掲句はドローンの飛ぶ田園に、役割を終えた捨案山子を取合せて、農業の今を印象的に切り取っている。案山子は昔の牧歌的な農村の象徴であろう。農家自身がドローンを操り、農薬散布をしている光景からは、動かぬ案山子に頼ることなく、現代技術を駆使して苦境を切り開く農家の姿が浮かんでくる。作者夫妻が住む上田市の塩田平には豊かな田園地帯が広がる。妻の百子氏の解説では「ドローンが飛ぶのは日常で、羽音を聞いて、あわてて窓を閉めたりする」らしい。作者は案山子という恰好の兼題を得て、地の利を生かした好句を生み出した訳だ。
蛇足ながら「薬散布」はややあいまいなので、三段切れを気にせず「農薬散布ドローン飛ぶ」と一気に詠み下した方が、より句意が明快になったのではなかろうか。
(迷…