コスモスの揺れる畑に犬ワゴン 工藤 静舟
コスモスの揺れる畑に犬ワゴン 工藤 静舟
『この一句』
マンションや狭小一戸建て住宅で犬を飼うとなれば、どうしても小型犬になる。近頃は掌に乗るような超小型犬も見受ける。私は犬も猫も大好きなのだが、座敷犬と呼ばれるこうした小型犬だけはどうしても好きになれない。人間が人間の都合に合わせて作った愛玩用動物で、見ていて痛々しい。中には道路をちゃんと散歩できない犬もいる。飼い主が抱いて散歩したり、犬用の乳母車に乗せて散歩している。
「犬ワゴン」という言葉をこの句で初めて知り、念のためにネットで調べたらあるある。ぞろぞろ出てきた。「犬用ワゴン」「ドッグカート」「ペットバギー」等々、今のところ名前は定まっていないようだが、様々なものが出ているのにはびっくりした。高いものには10万円近くするのもある。それがコスモス畑に現れたというのだ。いかにも今日的風景だなと笑ってしまった。
作者はその情景をただ写し取って、すらりと詠んでいる。いいも悪いも言わない。ただ、コスモス畑に小さな犬を乗せた箱車が現れたと言っているだけである。そこがいい。ここに作者の気持を表す言葉を置いたら、その途端にこの句はおじゃんになってしまう。こうした珍しい情景を提示し世相をうたうだけにして、好悪の感情どちらを抱くかは読者任せにしておく。俳句の作り方の一つである。
(水 23.09.03.)