「みんなの俳句」来訪者が20万人を超えました

「みんなの俳句」来訪者が20万人を超えました  俳句振興NPO法人双牛舎が2008年(平成20年)1月1日に発信開始したブログ「みんなの俳句」への累計来訪者が、9月9日に20万人に達しました。この盛況は一重にご愛読下さる皆様のお蔭と深く感謝いたします。  ブログ「みんなの俳句」はNPO双牛舎参加句会の日経俳句会、番町喜楽会、三四郎句会の会員諸兄姉の作品を取り上げ、「みんなの俳句委員会」の幹事8人がコメントを付して掲載しています。  このブログの来訪者はスタート当初は一日の来訪者が10人台でしたが、最近は一日平均60人になっています。発信開始後10年半かかって累計来訪者10万人となり、それから5年後の今20万人に到達しました。  幹事一同、これからも力を尽くしてこのブログを盛り立てて参る所存です。どうぞ引き続きご愛読のほどお願いいたします。      2023年(令和5年)9月10日 「みんなの俳句」幹事一同

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地に落ちて星屑となる百日紅   徳永 木葉

地に落ちて星屑となる百日紅   徳永 木葉 『季のことば』  盛夏に咲いた百日紅の小さな花が地面に散り敷いている様を、詩情豊かに詠んで日経俳句会8月例会で最高点を得た句である。  百日紅はミソハギ科の落葉高木。角川俳句大歳時記によれば、インド近辺が原産で、中国を経て遅くとも江戸初期には渡来した。仲夏の季語だが、夏から9月末頃まで赤やピンク、白の小さな六弁の花を次々に咲かせる。百日紅と書くのは花期の長さにちなむという。  百日紅は暑さに強く花期が長いので、街路樹に採用する自治体も多い。色鮮やかな花を付ける木の根元には、花期を終えた花弁があられを撒き散らしたように広がる。作者はそれを星屑に見立てた。「地に落ちた星屑というスケールの大きい表現と、百日紅の花弁の可憐さのコントラストが素敵です」(斉藤早苗)との評に代表されるように、その対比の妙が高得点の要因であろう。また「地に落ちて星屑となる」と先に黒く硬い岩をイメージさせておいて、最後に百日紅の赤(紅)を配する語順も、効果を上げている。  作者が住む佐倉市には百日紅の名木のある寺や屋敷が散在し、さるすべり通りやサルスベリ広場もある。持病を得たため遠出を控えている作者は、自宅近くを散策することが増えたのではなかろうか。頭上に咲く花ではなく、地に落ちた花に目をとめ、そこから夜空の星に発想を飛ばした作者の精神の若々しさに拍手を送りたい。 (迷 23.09.09.)

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三食をまかなふ日々のままに秋 廣上 正市

三食をまかなふ日々のままに秋 廣上 正市 『合評会から』(日経俳句会) 迷哲 今年は暑くて出かける気力もなく、冷房の家で朝昼晩の食事。素麵とか冷やし中華とかね。「猛暑」と「気がつけば秋」ということを上手に詠んでいる。 水兎 食べるのは楽ですが、作る方はものすごく大変。この句の作者は夏休みで子供が家にいるお母さんかもしれないし、一人で自炊している方もかもしれません。「今年の夏も頑張ったな」という感慨を持たれたのでしょう。 早苗 どういう状況か想像をかき立てられた。「まかなふ」「ままに」の「ま」と、「日々」。同じ音の繰り返しによるリズムが心地よい。 操 まさに実感。気がつけば繰り返しの日常に秋の訪れ。 百子 おさんどんに明け暮れる日々にも、時は確実に過ぎていくということでしょうか。なんだかむなしい。 ヲブラダ ああ疲れたという感じ。夏休みを苦闘したお母さん、と決めつけるとジェンダー的にまずいですね。 水馬 暑かった夏も食事の世話で気がつけば秋というところでしょうか。 弥生 生きる危機さえ感じながらの日々。この夏はこの句のごとしと。           *       *       *  体調を崩している妻を助けて食事作りに明け暮れた私は、この句を見て我が家を覗かれたのかと思った。同じような境遇の人が多くなっているのだろう、感慨一入である。 (水 23.09.07.)

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セシウムを測る山野や桃実る   中村 迷哲

セシウムを測る山野や桃実る   中村 迷哲 『この一句』  「桃の実」の兼題に、桃の「くぼみ」や「産毛」に着目したり、赤ちゃんのお尻に模したりと、桃の形状を詠んだ句が並ぶ中「セシウム」の上五は異彩を放った。  作者によると、8月初め、福島に旅行した折、桃を食べた。聞けば、産地では畑の土壌はもちろん、出荷する桃もセシウム検査をしているという。もちろん基準はずっと下回っているのだが、原発事故から12年経ってなお、風評被害克服の努力が続いていることを改めて知り、それを詠んだという。  放射性セシウムは半減期が長く、長期汚染が懸念される。福島県のホームページによると、県は水や空気、米や野菜、水産物から加工食品に至るまで徹底的に放射線のモニタリングを行っているそうだ。ホームページに載っている「緊急時モニタリング検査結果について(福島県・野菜・果実)」の最新結果を見ると、採取した地名とモモやトマトといった野菜、果物の種類の一覧表があり、セシウム134、セシウム137の欄には、いずれも「検出せず」の文字がずらり並んでいる。  東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出が取り沙汰されている昨今、「桃の実」に託してフクシマの現状を伝えるこの一句は、作者の新聞記者魂の発露とみた。 (双 23.09.05.)

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コスモスの揺れる畑に犬ワゴン  工藤 静舟

コスモスの揺れる畑に犬ワゴン  工藤 静舟 『この一句』  マンションや狭小一戸建て住宅で犬を飼うとなれば、どうしても小型犬になる。近頃は掌に乗るような超小型犬も見受ける。私は犬も猫も大好きなのだが、座敷犬と呼ばれるこうした小型犬だけはどうしても好きになれない。人間が人間の都合に合わせて作った愛玩用動物で、見ていて痛々しい。中には道路をちゃんと散歩できない犬もいる。飼い主が抱いて散歩したり、犬用の乳母車に乗せて散歩している。  「犬ワゴン」という言葉をこの句で初めて知り、念のためにネットで調べたらあるある。ぞろぞろ出てきた。「犬用ワゴン」「ドッグカート」「ペットバギー」等々、今のところ名前は定まっていないようだが、様々なものが出ているのにはびっくりした。高いものには10万円近くするのもある。それがコスモス畑に現れたというのだ。いかにも今日的風景だなと笑ってしまった。  作者はその情景をただ写し取って、すらりと詠んでいる。いいも悪いも言わない。ただ、コスモス畑に小さな犬を乗せた箱車が現れたと言っているだけである。そこがいい。ここに作者の気持を表す言葉を置いたら、その途端にこの句はおじゃんになってしまう。こうした珍しい情景を提示し世相をうたうだけにして、好悪の感情どちらを抱くかは読者任せにしておく。俳句の作り方の一つである。 (水 23.09.03.)

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群衆のやがて静まる大文字  高橋 ヲブラダ

群衆のやがて静まる大文字  高橋 ヲブラダ 『季のことば』  大文字の送り火は京都の夏の夜を彩る風物詩で、テレビでも中継される。8月16日の夜、東山の如意ヶ岳に「大文字」が灯され、洛中を囲む山々に「妙法」「舟形」「左大文字」「鳥居形」の火文字・火形が次々に浮かび上がる。五山の送り火と呼ばれ、盆の行事として古くから行われてきた。盆踊や灯籠流し同様、秋の季語である。  掲句は五山の送り火を臨場感豊に詠んでいる。上五の「群衆の」によって、多くの見物客が集まっていることが分かる。鴨川の土手であろうか。点火を待つ群衆が見つめる中、夜空に大文字の火が忽然と浮かび上がる。湧き上がるどよめきと歓声。しばらくすると次の点火を待って、辺りは静まり返る。歓声と静寂を繰り返しながら、一時間ほどで送り火は終わる。  送り火を直接描写するのではなく、「やがて静まる」と気配を詠んだことで、余情をたたえた句となっている。送り火はお盆に帰ってきた先祖の霊が、あの世に戻る時に焚かれるもの。作者は火が消えた後の静寂にこそ、見送る心がこもっていると感じたのであろう。  この一年を振り返ってもウクライナ戦争の犠牲者をはじめ、地震、洪水、熱波の死者など悼むべき人の数は増え続けている。大文字に集まった群衆は、それぞれどんな思いを抱いて火を見つめたのだろう。大文字が終わると京都は秋の気配が立ち始める。静かな心で死者を悼み、供養したいという作者の心情がしみじみ伝わる佳句である。 (迷 21.09.01.)

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